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大人たちが私の力をこわがっていても。
この子だけは、私を信じていてくれる。
『魔女』姉妹、フリーダとコメット。
これはその、幼き日の物語。
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快活で、絵を描くのが大好きな少女、フリーダ。
ごく普通の女の子に見える彼女だが、いつの頃からか、
フリーダには普通の子供とは違う『力』が宿っていた。
「ねーママー!みてみてー!
ふりーだ、おえかきしたらねー?
うるふちゃんねー?
かみからとびだしてきたの!
まるでいきてるみたい!」
それは、描いた絵が実体化するという魔法の『力』。
-フリーダ。
お前の力は、絶対に他の人に知られちゃイケない。
もう、人前で絵を描くのはやめなさい。
「・・・はーい・・・」
-あの子、どんどん『力』が強くなっていくわ…
抑えが利かない…
-何故…この子は本当に私達の子供なのか?
何かの間違いじゃないのか?
こんな…この子は『魔女』…なのか?
隠さなければいけない…誰にも知られてはいけない…
敬虔なクリスチャンであったフリーダの父親と、
そんな夫に妄信的だった彼女の母親は、
異能を持った娘、フリーダを悪魔憑きの『魔女』かも知れないと考え、
フリーダを腫れ物に触れるかのごとく扱うようになった。
少女期に両親の愛を受けられなかったフリーダ。
ともすれば荒んでしまいそうな心の拠り所は、
彼女の2つ下の妹、コメットだった。
「ねーねーふりーだおねーちゃんあそぼうー!
おねーちゃんおえかきして?
こめっと、うふるちゃんとあそびたいっ!」
「っ…しょうがないなー、ママとパパにはナイショだよ?」
「やったー!おねーちゃん、だーいすき!」
『普通』の子供だったコメットは両親に愛されていた。
しかし幼いコメットは両親とは違った。
姉を恐れず、『力』にも怯えず、フリーダによく懐いていた。
そんなコメットの存在は、ささくれ立ったフリーダの心を慰めてくれた。
二人は実に仲の良い姉妹であった。
・・・
そうして、コメットが6歳の誕生日を迎えた日、事件は起こった。
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「コメット、おたんじょうびおめでとう。」
「ありがとうおねぇちゃん!
…ねぇ、おねえちゃん?
どうしておきがえしないの?
おねえちゃんは、おでかけしないの?
ゆうえんち、いかないの?」
「…私はおるすばんしているわ。
コメット、ママとパパと楽しんできてね?」
「えーー!やだーーー!!
おねーちゃんといっしょがいい!
どうしていっしょにいってくれないの?
…ママとパパが、ダメっていったの?
だったらわたしからおねがいする!
プレゼントなんていらない、だから、
おねえちゃんといっしょがいいって!」
「…ちがうわ、コメット。
私がいかないって言ったの。
人がたくさんいるのはスキじゃないし…っ…
それに…ちょっと、具合がわるいの。
ごめんね・・・ホントに、ごめんね。」
-あの子の『力』が恐ろしい。
何もない所から、描くだけで幻を呼び起こすなんて…
-私達にはコメットがいるわ。
この子は『普通』の子供よ。『魔女』とは違う…
フリーダを一人家に残し、コメットの誕生日を祝うために遊園地に向かう3人。
ところが少し目を放した隙に、コメットの姿は両親の目の前から消えてしまった。
迷子になったのだと考え、必死に探すのだが見つからない…
途方にくれたその時、迷子センターに、一枚のメモが残されているのが発見される。
『娘を返して欲しければ身代金を用意しろ
警察に知らせたら娘の命の保障はない』
なんというテンプレートなメモ書き。
コメットは犯罪者に誘拐されてしまったのだ!
-馬鹿な!こんな大金、支払える訳がない!っ…
警察に…任せるしかない…
-そ、そんな…コメット!
ああ神よ!どうか…どうかあの子と私達をお守り下さい!
(えっ…コメットが、さらわれた…?)
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他の誰も、私をあいしてくれなかった、
『魔女』の私をあいしてくれたのは、あの子だけ。
(どうして助けにいってくれないの!
私のことはすきじゃないけど、
コメットのことはあいしているって、影ではそう言ってたのに!
このままじゃ、コメットがしんじゃう…
ぜったいにイヤ!私のことをキライにならないでくれた…
だいじな、一番だいじな私の妹!)
『力』を見せても私をおそれないで
笑っていてくれたのは、あの子だけ。
(・・・私がコメットを助ける。
この『力』がバレたってかまうもんか!
今いかなかったら、ゼッタイに後悔するから!)
妹を一心に想うフリーダの祈りが天に通じたのか。
奇跡は起こり、彼女はその身にグルーブトロンを宿す。
「ゴー!マイ、ウルフちゃん!!
…おねがい!どうか、私をあの子の所まで連れていって!」
ありったけの魔力と、激情によって高められたグルーブトロンを籠めて
フリーダは幻の狼を虚空に描き出す。
その夜が魔女の力が最も強まる満月であった事も、フリーダに味方した。
彼女の想いを籠めて呼び出された幻の狼は、
フリーダをその背に乗せ、彼女の願いを叶えるべく走り出した。
(どうか無事でいて…コメット!)
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トロンと魔力を振り絞り、自らが描いて召喚した狼に跨り、
月明かりの下、森を駆け抜けるフリーダ。
その森の奥、古びた小屋でフリーダが見たものは…
「…あ…おねえちゃん。
やっぱりおねえちゃんはきてくれたんだね。」
子供にしては珍しく野菜好きなコメットが、
特に好んでいるピーマンやナス…ただし、ありえない位巨大な。
「…ねぇみて?おねえちゃん。
コメットも、まほうがつかえるようになったよ?
キライなもの、なんでもスキなものにかえられちゃうの!」
そして全身に『力』を漲らせ、
小さな窓から差し込む月の光に照らされた、愛する妹の微笑む姿だった。
「うれしいな…
これでわたしも、おねえちゃんとおんなじだよ。
わたしも…『魔女』、だったんだね。」
・・・
かくして、コメットは怪我一つなく、五体満足で救出された。
しかし、コメットまで『魔女』の血に目覚めたことにショックを受けた両親は、
姉妹の養育を放棄して失踪してしまう。
行くあてのない姉妹を引き取ったのは、母方の祖母だった。
姉妹の『力』のことを知った祖母は、
幼い彼女達に魔女の心得と力の制御方法を、厳しくも優しく仕込んでいった。
…姉妹に比べれば弱いながらも、祖母自身も『魔女』の力を持つ者だっだのだ。
祖母の口から語られた、姉妹が『魔女』の末裔だという真実。
-おまえたちは、二人とも『先祖返り』をしたのだろうね。
あの男と出て行ってしまった、おまえたちのおかあさん…
私の娘には、まるで『力』を感じられなかったから、
こんな話もしなかったんだが…
ごめんよ…フリーダ、コメット…
今まで随分とつらい思いをさせてしまったね…
おばあちゃんをゆるしておくれ…
両親に捨てられたという現実は、幼い姉妹の心に傷を残してしまったが
祖母は出来うる限りの愛情を姉妹に注いでいった。
徐々にではあったが、本来の明るさを取り戻していったフリーダとコメット。
祖母に支えられつつ健やかに成長していく。
(・・・寂しくなんてないわ。
だって私たちは、一人じゃないもの。)
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そして、10年後・・・
「ちょっとコメット!
待ーちーなーさーーーーいっ!
あなた、またオヤジジュースをゴクゴク♪したでしょう!
やめなさいって言っているのに…お腹壊したらどうするのっ!
そ・れ・と!
むやみに感情のままに魔法を使っちゃ駄目!
おばあちゃんにも言われてるでしょう?
『魔女は常に、心穏やかであれ』。
感情のコントロールが効かなくなったら、
また力が暴走してしまうわよ?」
「ゴメンなさ〜い、ちょっとノドが渇いてたの!
もうジュース飲まなかったら、
穏やかじゃいられな〜い!…って位?」
「そんなワケないでしょう!
全くもう!たまに帰ってきてみれば…おばあちゃんは元気?」
「勿論元気よ!全然変わってないわ?
そうそう、おばあちゃんっていえばこないだね?
ヒートとダンスバトルした時、イイコト思いついちゃって
『そぉ〜れっミ☆★』って、ヒートをミルク缶コーヒーにして、
おばあちゃんにプレゼントしたの。
『若いオトコの回春エキス、一本ナマ絞りじゃ〜!』って、
喜んでゴクゴク☆★してたわ!
これってすっごくおばあちゃん孝行しちゃったってカンジよね?」
「か、回春…!?変な事言わないで!
全然心穏やかに暮らしてないじゃない!!
はぁ…もう…ホントに相変わらずなんだから…
っていうか…ヒート、大丈夫だったの?」
「飲んだ後の缶捨てちゃったケド、大丈夫だったわよ?
バトルの3日位後だったかしら、わたしのバイト先に全身燃えながら乗り込んできたわ。
…あ、そういえばなんかちょっとゲッソリしてたかしら〜?
あんまりカッカするとカラダによくないからそのせいかな?って思って、
水かけてブタの貯金箱にして、ちゃんと家に帰してあげたわ、魔法でっ♪」
「はぁーーー・・・あ、アタマ痛い・・・
私がギリシャ行ってる間に何やっちゃってくれてるのよ…
あなたがバトルに出るっていうから、安心して仕事してたのに…
やっぱり、コメットに任せちゃダメだった…後でヒートに謝らなきゃ…」
「あ、お姉ちゃんひどい!わたしだってしっかりやってたわよー?」
「アハハ、はいはい?」 「むぅ〜…」
・・・
祖母の下で健やかに成長し、力の制御を学んだ魔女姉妹。
ほがらかで真面目な気質の姉・フリーダは
『魔女』としてよりも『芸術家』としての生き方を選び。
奔放だが明るく仕事熱心な妹・コメットは
お茶目な『魔女』として、祖母と二人で暮らしていた。
例え遠く離れて暮らしていたとしても、
フリーダとコメット、二人の心は繋がっている。
「だって、私たちは…『魔女』だから。」